夢
ここから車で約15分。歩くと1時間位の所に沼代という里山があって、初めて訪れたのは何年前だろう。
まだまだ引きこもっていたい気持ちがほとんどで、でもそうもいかなくて。痛いところに触れても避けないくらいのペースで、ゆっくりゆっくり巻き戻しながら過ごしていた頃。音叉の施術を始めて1年たったか、たたない頃。
きっかけはその里山でお米を作っているべんさん。
当時は茅ヶ崎に住んでいて、休みの日は海に行ったり、休みじゃなくても海に行ったりしていたなあ。
そろそろ海ばかりじゃなく、お山に行きたいと思い始めたそんな時、「ご案内しますよ。」なんて言ってくれる人がいても、ひょいひょい着いていっちゃいけません。
けれど何でしょう。べんさんの気さくで、沼代のこと、田んぼのことを話している時の跳ね返ってくるようなキラキラの瞳が印象的で、ひょいひょいと着いていってしまったなあ。
到着したお宅が、やすなりさんときよこさん、息子さんとお母さんのお二人で農業を営むお百姓さんのお家。
お二人の、ようこその雰囲気に心がぱぁっと明るくなった。
初夏で、
緑が盛んで、
少し蒸していて、
田んぼの畦道を歩いて、べんさんはビーチサンダルをサッと脱いで、裸足で田んぼの中に入って水捌けをなおしたりしてた。私は田んぼには入らなかったけれど、カエルとかバッタを見つけて追いかけたりした。
ブルーベリーを収穫した。魚籠(びく)と言う名のかごを持ってサクサク摘んで、「つまんで食べてみて。」のひと声で、パクっと食べてポイポイパクパク食べたら、粒ごとに酸味や甘味の分量が少しずつ違って、皮が弾けて、とても美味しかった。
きよこさんが「冷凍しておいてジュースにして飲むの。」と言っていた。なんと贅沢な話でしょうか。その数年後に飲めることになるなんて夢にも思っていなかったから、帰りに持たせてくれたブルーベリーは10粒ずつ位を少しずつ食べることにして、しばらくの間は朝食がデザート付きになった。
きよこさんはくるくる動き回ってて明るくて、やすなりさんは笑った顔が太陽みたいで、当時の、まだもう少し目をつむっていたい私には、まぶしすぎる程だった。
それでも誰かと、ひと言、ふた言話すだけでも警戒心280%だったのに、またここに来ることがあるかもしれない、そう思えたことが、何よりの収穫だった。
その後は1年に1、2回とか2、3回、1年以上間があいたりしながら畑に来て、春の桜の季節のお祭りにも何度か訪れた。夏のお祭りは一昨年がはじめて。何年か前にお餅つきに訪れたりもしたな。
そんなふうに里山に来て、畑に出て、その度にこつこつ力をためていった感じ。
➡つづく